Blog:医療人文学/ONHP 報告 #005 (240114)

土曜日の夜、Pusey House Chapel の Epiphany Lessons & Carols に出席した。

英国教会 Church of England / Anglican Chruch は、ヘンリーⅧ世の首長令(1533)でローマ・カトリックから独立した。それまでローマを中心にヨーロッパを覆い尽くす形で構成されていた西方教会の中に初めて国教会が成立したことになる。〔ルターの『95ヶ条の論題』(1517年)に端を発した大陸の宗教改革は、1555年のアウグスブルグの和議で領邦教会として形を整える。〕イングランドという国民国家の政治経済的を精神的に支えたこの教会の独立は、しかし、礼拝の形を変えるものではなかった。英語の聖書と祈祷書を用いながらも、典礼とりわけ教会音楽は、伝統を受け継ぎながらますます盛んになった。Thomas Tallisは、この英国宗教改革を跨いで活躍した作曲家・オルガニスト。William Byrd がそれに続く。1379年創立の New (⁉︎) CollegeのChoirは1380年から、1458年創立の Magdalen College(モードリンと発音する)は 1480年から Choir を持ち、Oxfordは中世英国で最も古く大きな教会音楽組織を形作っていた。そして宗教改革の波を乗り越えて、今日まで変わらぬ礼拝音楽活動をしている。ちなみに、現在の Oxford の Cathedral であり素晴らしい Choir を持つ Christ Church は、(King’s College, Cambridge とともに)ヘンリーⅧによって創設された Collegeである。カトリック教会が、20世紀の第2ヴァチカン公会議を経て、大きな典礼改革をしたので、中世教会音楽の伝統を受け継いでいるのは、実は英国なのである。

英国教会にもその後の歴史の中で、プロテスタント諸派との交流や新しい動きがあった。リベラルな流れが活発になる19世紀初頭の英国教会の中に、むしろカトリックの伝統を回復しようとする、Oxford Movement と称される動きがあった。中心は John Henry Newman と Edward Bouverie Pusey(Newmanは、1845年にカトリックに改宗)。Pusey Houseは、この思想を受け継ぎ、英国教会内におけるカトリックの伝統を大切にする流れ(High Church)の中心である。ここでは、伝統に則り、キリストの誕生を祝う季節は、11月末の Advent に始まり、クリスマスを経て、Epiphany の8日目まで続く。今週末がこの季節の最終日。クリスマスの礼拝と同じようにキャンドルを灯しキャロルを歌う。

日曜日は、Magdalen College の朝の Sung Eucharist に出席した。とても奇妙な感覚。世界屈指の Choir が私から3mのところで、大学時代グリークラブで毎日親しんでいた中世教会音楽のPolyphonyを歌っている。今日の曲は、Tomas Luis de Victoria の Missa O magnum mysterium。Anthem は William Byrd の Ave verum corpus。この曲は今でも譜面なしで歌える。聖歌のメロディーは全部知っており、歌詞だけ見れば歌える。祈祷文は英国教会系神学校で学んだ時のまま。聖書朗読もそれに続く説教も、とても馴染みのあるもの。典礼の合間に入る沈黙も、私の感覚にピッタリくる。この礼拝をこのように appreciate できる日本人が、他にどれほどいるだろうか?という考えがよぎったりもする。これまで積み上げてきた宗教的経験が一斉に、この1時間の礼拝の中で開いた感覚。前世の自分はここで礼拝をしていたのではないか、とキリスト教らしからぬ思いが湧く。

私は、教会音楽を大切にしながら英国教会に連なる礼拝や神学を通して信仰を養ってきた。自分のスピリチュアリティの故郷に来た感覚を Oxford で味わっている。半年間、キリスト教の伝統を味わい直す、というもう一つの目標が見つかった。

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