Blog:医療人文学/ ONHP 報告 #015 (240309)

火曜日のセミナーは Alan Rusbridger [https://reutersinstitute.politics.ox.ac.uk/people/alan-rusbridger ]。英国の質の「高い質の新聞 quality paper」の一つThe Gardianの元編集長(在任期間 1995~2015)。現在はProspect誌の編集長。この間一時期、Oxfordのカレッジの一つである Ledy Magaret Hall の校長も務めていた。このデジタル時代にメディアを運営し、経営を成り立たせながら理念を追求してゆくことのバランスが「Purpose and Proft」というテーマで語られた。The Gardian は Manchester で1821 年に創刊された新聞。政治的立場は中道左派。特定の政党の代弁者になる事なく、かつ商業ベースにならないように、注意深く綱渡りをしながら存続してきた。英国の新聞は伝統的には大きな版の quality paper と、根拠の薄い情報やスキャンダルなどを載せるタブロイド版 Tabloid という小型の新聞とが区別される。現在では新聞のサイズは経費の関係で皆小型化され、デジタル版も普及している。quality paper は海外に特派員を常駐させ、編集長の責任で記事の内容を決める。新聞は英国民の社会理解や意思決定に重要な役割を果たしている。どの新聞を読んでいるかで、その人の社会的な位置がわかるとも言われる。The Gardianはこれまでも、社会のいろいろな出来事に影響を与えてきたが、セミナーで話題になったのはスノーデン Edward Snowden(国家安全保障局 NSA 及び中央情報局 CIA の元職員)による内部告発(2013)。NSAが世界規模でインナーネット上の組織や個人の情報をPRISMと呼ばれるプログラムで監視しているとするもの。当時世界中を二分する大事件。Alanがその情報公開を実現した当事者 [https://www.theguardian.com/commentisfree/2023/jun/06/edward-snowden-state-spying-guardian-alan-rusbridger ]  。我々の cohort の一人は、元米国の連邦検事 Federal Prosecutor 。当然、ディスカッションは(穏やかな表現の応酬でありながら)基本的人権である個人の秘密と、国家の安全を守るための機密のバランスが話題。Alanの立場は、もちろん国家や政治理念に左右される事なく、ジャーナリズムの独自性を守ること。新聞の編集長は、社主からの指示も受ける事なく記事の方針を決定する。Alanは、指示系統の縦の関係ではなく記者仲間の横の関係こそが最も重要と語る。そしてそれが民主主義の基盤である、と。The Gardian の 電子版は、Paywall を設けていない。無料で全記事が読める。もちろん subscription や Support を求めるポップアップは頻繁だが、「後で」という選択さえすれば全記事、全社説が読める。これが The Gardian の経営戦略であり、民主主義におけるジャーナリズムの役割の自覚。

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今週木曜日のレクチャーは Oxford の行政学大学院 Blavatnik School of Government の Dean、Ngaire Woods [ https://www.bsg.ox.ac.uk/people/ngaire-woods ]。テーマは「Grobal Governance at a Crossroads 」。国際社会には、合意形成をしそれを執行するメカニズムが存在しないことが多い。そのような状況下で問題に取り組むプロセスが global governance。情報やお金そして知識がグローバルに(ある意味無制限に)行き来する中で、どのような秩序が実現しうるのか、という大きなテーマ。しかもその状況が今とても重要な局面を迎えている、という話。話のスタートは、世界的に見られるそれぞれの国における政治的意見の「polarization 二極化」:1)共有することのできる利害・価値観が破綻し、2)意見相互の交流が減少し、3)政治信条が硬直化し、4)それぞれが偏った情報の蓄積に基づいて二極化をますます強化している。そのような国内状況を背負った国家間で、a.雇用創出、b.物流の安定、c.環境問題、d.技術移転、e.紛争解決への国家間連携、に取り組むことが極端に困難になってきている。そこで重要になるのがリーダーの養成。Ngaire は、2010年の Blavatnik School of Government の設立にも関わっており、ここが将来の世界のリーダーの交流の場となることを期待している。(Blavatnikに限らないが、Oxford は全ての分野で)生涯のネットワークづくりにとての熱心。勿論学費(だけ)で1年間に1千万円ほど。しかし、さまざまな国や機関の寄付によって90%の学生が奨学金を得ており、全学生の79%の学生が全額奨学金を得ている。経済状況に関わらず、世界の様々なところから将来のリーダーが集まっている。Ngaire との夕食での話題として、国内の二極化への対策は、穏健な中道勢力の形成がとても重要だ、と語っていた。また、そのためのジャーナリズムの重要性にも言及した。火曜日のセミナーの話題とも重なる。狭い視野に基づく選択的な情報の取得ではなく、バランスの取れた、意見を異にする者にも耳を傾ける努力を続ける必要を強く感じた。

www.architectsjournal.co.uk/buildings/blavatnik-school-of-government-oxford-university-by-herzog-de-meuron

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昨日は、Rhodes House の企画で、黒澤明の「生きる」(1952)を観てディスカッションをする自由参加のセミナーがあった。ONHPの焦点であるこれからの生き方を探る上で、死を意識したとき態度、官僚主義的社会の中での個人の役割、コミュニティーの力、特別な人との出会い、などが語られた。リードしてくれたのは School of Oriental& African Studies, University of London の Julia Stolyar [ https://www.soas.ac.uk/about/julia-stolyar-7 ]。

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Queen’s College は14世紀に創設されたが、その建築は他のカレッジと異なり 18世紀の英国バロック様式、豊かな装飾と絵画の組み込まれた明るい建築。混声の Choir は英国屈指と言われるが、私には、その建築様式と礼拝のムードがそぐわない感じがしてしまう。指揮者のスタイルにもよるかもしれない。(正規の音楽教育を受けたことのない)素人感覚だが、合唱指揮者にはコントールの強い人とそうでない人とがいるように思う。前者は演奏中に細かく指示を出す。それがあまり好きではない。テンポと曲の流れの指示は必要だが、全体の中での自分の声部の役割を自分の感覚で主体的に感じ取ったメンバー各自の営みとしての合唱の成立が大切だと思う。そのための事前の練習の重要性は言うまでもない。この感覚は、私のグループワークのスタイルとも共通する。また polyhony という概念に特別に魅了を感じる理由もここにある。それぞれの感覚や想いの具体的表現が、全体との対話の中で自ずとその意味を見出していく。考え計画して実施するのではなく、表現が全体の中で味わわれフィードバックされる感覚。

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以下、毎回のお願い:バックグラウンド・リサーチが不十分なものも掲載します。限られた体験に基づく主観的な記述が中心となります。引用等はお控えください。また、このブログ記事は、学びの途上の記録であり、それぞれのテーマについて伊藤の最終的な見解でないこともご理解ください。Blogの中では個人名は、原則 First Name で記すことにしました。あくまでも伊藤の経験の呟きであり、相手について記述する意図はありません。

伊藤高章 t.d.ito@sacra.or.jp

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