Blog:医療人文学/ONHP 報告 #008 (240127)

オリエンテーションが終わり、今週から通常のスケジュールが動きだした。とはいえ通常が「始まった」という意味では大きな変化の週でもあった。火曜日は Cohort(これがグループの呼び方)のセミナー。毎週新たなテーマと文献が指定されている。Cohort 19人とHarris Manchester College の Princopal である Jane Show、Rhodes House の WardenであるErizabeth Kiss と合計21人だけの2時間。テーマについて自由な思いの交換が行われる。それぞれ豊かな経験を持つ仲間が、この二週間は、現代の職業観、高齢化社会、について論じた時間。セミナーの後は、食堂の一角を独占し、交流を深めながら夕食を取る「義務」がある。木曜日は、Oxford 大学関係の専門家のレクチャー。現代のグローバルな課題と最先端の取り組みが講義される。勿論、真剣な質疑応答。その後は、レクチャラーを囲んでフルコースのディナーをとる「義務」がある。そして、週のどこかで、それがなければOxfordの教育でないと言われるTutorial。そこでは、私の選んだテーマ(医療人文学)に関するさまざなトピックについて毎週1時間、tutorとの1対1でのディスカッション。記しておかなければならないことはたくさんある。しかし、学びについての話は、次回に回す。今回は、24日(水)に行われた、Harris Manchester College の毎年のイベントである Annual Tayler Talks Dinner について。

1850年にカレッジの古典学のTutorであったJohn Taylorが、アメリカの奴隷解放についての演説をした。それ以来このカレッジは「他者と違った考えを持つ」という伝統を大切にし、講演会とディナーを毎年ロンドンで開催している。今回のSpeaker は連邦事務総長 Secretary-General of the Commonwealth (of Nations) の The Rt Hon Baroness Scotland KC。Commonwealth は、かつては 英連邦 British Commonwealthと呼ばれていたが、1949年に “British” は削除されている。現在は56カ国のイギリスと関係の深い独立国の緩やかな連帯である。関税に関する特別な連携があるが、おそらく一番大切なのは、これらの国々が法律の伝統を共有し価値観を共有していると認識していることだろう。法の支配と民主主義、そして英米法 Common Law。お互いの国の判例を時に参照しながら法運用がなされる。どこの国や文化に生きようとも守るべき「正義  justice」と「衡平 equity」がそれらの中に表現されていると考えているから。(今回の19人の中で、法律家が数人いる。そしてこのCommon Law の法文化に育っていないのは、もしかしたら私だけかもしれない。)Commonwealth の会議では56カ国は全く対等な立場で、様々な議論をする。現代の共通課題は、地球温暖化;域内の貿易と経済:民主主義と法の支配;社会と若者(ジェンダー平等、教育、健康、スポーツ);そして小さな加盟国への支援、だという。

英国の様々なタイトルを持つ人の名称は難しい。Dominica 生まれの Patrica Scotland 女史は、英国の保守党の議員として高い役職に着いていたから “The Right Honourable (The Rt Hon)”、様々な功績により爵位をもらっているからBaroness、そして政府の法律顧問 Attoney General にまで上り詰めた。最高位の法律家「王室顧問弁護士King’s/Queen’s Counicil (KC/QC)」でもある。この彼女が、Dominica から選出された現在の commonwealthの事務総長である。

https://thecommonwealth.org/secretary-general-patricia-scotland

Talk とDinner の会場は The Middle Temple。現在は、4つある法廷弁護士 Barrister たちのコミュニティ Inns of Court の一つ。英国の Barrister 教育は 、大学で行われるのではなく、大学卒業後に Inn に入るための法学教育を受け、その後 Inn に入りBarrister の下で徒弟制度のような実務教育を積む。実は、のCollege のシステムも同じ。Oxford や Cambridge は、学者の徒弟制度の場所として始まった。The Middle Temple は14世紀には現在の活動の基礎が築かれる。いつものように、壁に飾ってある肖像画の一つ一つを丁寧に説明されることでオリエンテーションが進む。

ところでこの Middle Temple の場所は、このような法律家の組織になる前は、十字軍の際に組織されたテンプル騎士団の本拠地(これは歴史的事実)。キリストが最後の晩餐に用いた「聖杯」をめぐる中世の騎士文学に登場するテンプル騎士団。(これの聖杯伝説はおそらく御伽話)。最近では、ダン・ブラウンの『ダ・ヴィンチ コード』にも出てくる。実は Collegeと同じで、この組織に属して一番大切な義務は、一緒に食事をすること。同じ高度な(そして高貴な⁉︎)な職にあるものは、互いの尊敬しながら一緒に生活することを通して、一人前になってゆく。そしてその絆は生涯続く。資格を取るのとは違い、その職の仲間になってゆく、というのが英国の(人格)教育の根幹のようの思える。それ故か、以前も紹介したように、やたらと次々と人を紹介される。ネットワークこそが力、という感じ。今回のような正式な Dinner のドレスコードは “Black Tie”。つまり、「タキシードを着て来なさい」。

Oxford の College との往復に使ったバスが会場を出発したのは午後10時。帰宅したのは深夜0時半ごろ。

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